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1人になった病室。目の前には変わらない白い壁。
私の頭の中ではさっきの恵一の言葉がぐるぐる回っている。

「本当に何だったんだろう、恵一・・・
『憑かれてるんじゃないか?』とか『早くいつもの七海に戻って欲しい』とか・・・
私、そんなにおかしかったかな・・・」
口をついて出てくる独り言もその事ばかりだ。

でも、考えてみれば確かに今日はずっとおかしかったかもしれない。
まず朝から駅でいきなり気を失ってしまったのだから。
私はそれをずっと「寝た」と思っていたけれど・・・違うのだろうか・・・

いや、むしろおかしくなったのはそれ以降だ。
実際体調が悪くなったのは昼頃で、朝は特に何て事も無かった。
「・・・あれ?そう言えばさっき・・・」
しかし恵一は朝も違和感があった、と言っていた。
私は特に何も感じていなかったので、今考えると少し妙な気がした。

「おかしくなってるのは恵一だったりして・・・」
気を紛らそうと敢えて冗談めかして言ってみたが、笑えなかった。
「・・・そんな訳無いよね。」

私は改めて落ちる直前の事を思い出してみる事にした。
「人身事故があったのが丁度4年前なんだよね。
で、飛び降りたのは1人の女の子・・・と言うと私が中学生の時かぁ・・・
恐らくさっきあそこにいた女の人はその子の知り合いかな。
何か何処かで見た事がある様な気がするけど・・・」

そう、最初は気付かなかったが、私はあの女性に見覚えがある様な気がした。
しかし、記憶の中にある姿とは何かが違う気も同時にした。


「・・・うっ・・・」

その時、また頭痛が始まった。

(もしかして、この頭痛は今日の奴と関係があるのかも・・・)
そう思った私は、痛みに耐えながら更に続ける事にした。

目を閉じると、ぼんやりと風景が浮かんできた。
誰もいない駅のホーム。
椅子に座っている私。
異様な程の静けさが逆に落ち着かない。
周りの様子を見ようかと思ったが、身体が動かない。
一体何がどうなっているのだろうか・・・?
そう思っていた矢先、私は独りでに立ち上がった。
そして黄色い線の先へと進んでいく・・・

此処で私は目を開いてしまった。
やはり目の前にある風景は何も変わっていない病室だった。

さっきの風景の中で、時が進むにつれて頭の痛みも増していた。
まるで私と他の誰かが一緒になっているかの様だ。
しかし、この先に何か重大な事が隠れている様な気がする。
そう思い、私は意を決して再び目を閉じた。

浮かんだ風景はさっきの続きだった。
私は黄色い線の外側で足を止めた。
すると今まで聞こえなかった電車の音が耳の奥まで響いてきた。
まさか、これは・・・
私はぎゅっとこぶしを握り締めた。
そして、ふと上を見上げるとそこには小さな鏡があった。
そこに写っていたのは・・・

―――私の顔じゃない!

しかし、その「私」は驚く暇を与えてくれなかった。
気付いた時には目の前は真っ暗になっていた。

私は敢えて目を開けず、そのまま耐えてみた。
頭痛は相変わらず激しいままだ。

暫くすると、再び駅のホームが浮かんできた。
今度は人も普通にいるし、音もする。
そして、椅子には1人の眠っている人がいる。
その顔は・・・私と同じだった。
だとしたら、今此処にいる「私」は誰?
そう思いつつ、「私」は眠っている私の許へと歩いていった。
そして少しの間目の前が再び真っ暗になったが、その後はまたホームの風景が見えてきた。
鏡を見てみると、そこにはいつもの私の顔が写っていた。

そこで私は目を開けた。
「あっ・・・」
考えてみれば、今の風景は・・・今朝の出来事にそっくりだ。
私は眠っていたと思っていたが、実際にはホームの端へと歩いていった。
そう、鏡があるホームの端だ。


「・・・!!」
その時、私の中で今までの出来事と記憶が繋がった。
それは言葉ではすぐに表せない様なものだった。

そして、私は本当の事に気付いてしまった。
何で今まで気づかなかったんだろう・・・
いや、むしろ気付きたくなかったのかもしれない・・・

―――私は「七海」ではなかったんだ。

(・・・早く恵一に伝えないと!)
そう思い、私は病室を抜け出した。

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